中には怒り出してしまうお客様もいる。こんなことをしていると、「自分の仕事って、正しいことをしているのだろうか」と不安になってくる。

金光さんは組んでいる足を入れ替え、話を続けた。

「そんな事をしても自分のパフォーマンスが悪くなるだけだからね。いいかい、トップセールスというのは、ノーをイエスに変える力があるんじゃなくて、どっちつかずの浮動票をイエスに変える力がある者のことなんだよ」

金光さんはそう言うと、ペットボトルの水を一口飲んだ。

「浮動票って、あの選挙のときに、その時々の気分や情勢によって支持する候補者や政党を変える人たちのことですか?」

「そうだ。実はこの浮動票が割合としては一番多い。イエスが二割、浮動票が六割、ノーが二割だな。一般的な営業マンは最初から条件が合っていて買って当然のお客様二割と、浮動票六割のうちから一割しか成約できない。トップセールスはイエスの票はもちろん、浮動票からも二割から三割のお客様を契約にもっていく。だからトップセールスなんだ」

真剣に話す金光さんは、昨日バーで会った時のような親しみやすい雰囲気ではなく、できるビジネスマンというオーラがあった。

言葉ひとつひとつにズシっとした重みがあり、圧倒されそうになる。僕は金光さんの言葉を一つも聞きのがさないように全身を耳のようにして金光さんの話に意識を集中した。

 

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