【前回記事を読む】(ん?あんただれ)と、まるで不審人物かどうか見定めるように両目を細められた。間違いなくあたしと同じ…
第一章 出会い――ひまわり坂でキミと
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あたしから数歩ぶん離れたところで足をとめ、「ああ、ええと」と少し口ごもったあと、彼女は「こんちまた、お日柄もよく」と、完全に予想の斜め上を行く言葉を発した。
なに、それ。「こんちまた」って……現代を生きる女子高生の語彙(ごい)に、ぜったいそんな言葉はない。意表を突かれすぎて、たまらず噴きだしそうになる。
現金なもので、それだけで気安さを覚えたあたしは、ぼさぼさに乱れた髪を手早く指ですいて耳にかけながら「こんにちは」と軽く笑んだ。「あ、時間的にはまだ、おはようございますかな」
すると彼女は、「ああ」と不思議な声をもらしたあと、こういう場合はそうしなければならないのだとようやく気づいたように、ぎこちない笑い顔で「ああ、うん、そうだね。確かに、おはようだ」と答えた。
開発なかばで学習機能をテスト中のロボットが、相手の行動に応じてそれらしい表情をつくってみた――まるでそんな感じ。
「ねえ、あなたも合宿に参加するんだよね」
そうたずねてから、「当たり前のことを聞くんじゃない、そんなの見ればわかるだろう」――そのくらいのことは言いかえされそう、と思いながら彼女の顔を見る。すると彼女は、拍子抜けなくらいあっさり「そう」とだけ答えた。
それから彼女は、あたしの顔をのぞきこむようにしてしげしげと見つめ、「ふうん」とつぶやいた。
つい「え……なにか顔についてる?」とベタな反応を返してしまう。
彼女は、少しあわてたように「あ……めんごめんご。そうじゃないよ」と首を振った。
"めんごめんご"というのも、今どきなかなか聞かない言葉だ。