もちろん、再発の可能性もあり、心機能低下により前回同様の脳梗塞を再度繰り返すことも考えられます。この病気の恐ろしいところは脳損傷を複数回重積すると、症状はその前に比して明らかに悪くなることなのです。

そして、再発を繰り返すと、今この程度でバランスを保っている症状がひどく悪化し、歩けない・話せない・記憶できない・やる気が出ない、のようないわゆる「最悪の」の状態に陥ることすら考えられます。セラピスト時代、私は実際に脳卒中を複数回繰り返して症状が以前の状態よりひどくなった方を経験しています。

思い返すと、発症直後の私は左半身の運動麻痺と感覚障害、および思い通りに話せない発話の障害と重度左半側空間無視という脳損傷後遺症がありました。その他の「談話の障害」などの右半球症状や注意障害は後日生活の中で顕在化していきましたので、マイナーな症状として扱えます。

それほど深刻な状況に直面していたにもかかわらず意識消失もせず様々な好条件に恵まれ、現実に死を経験することなくあっけなくこの世に戻ってきました。意識を保っていたことは、また別の意味で幸いなこともあり意識があったがゆえに発症当日私に接した人々の対応を自分なりの視点で目撃・分析することができました。


(1)鈴木則宏「心原性脳塞栓症の治療と予防の最前線」、『日本内科雑誌』106(3):490-493, 2017

 

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