【前回記事を読む】「失語症の方々のために貢献したい」——教授になっても研究を続け、「よりよいコミュニケーション」実現のために活動し続けた

第一部 社会に飛び出せ ―数奇な私の人生―

Ⅱ. 失語症者の「当たり前」を取り戻す

失語症者の事情

私は、そういう言語室事情も踏まえ、STは患者さんと言語室に籠りきりになるのではなく、むしろ失語症者の方が自主的に言語室から外に出て生活の場で買い物をしたり乗り物を利用したりして「生活する中で様々な経験をし、言語能力を回復させる」支援をするべきだとずっと思ってきました。

言語室の中で、当人の日常生活には無縁と思われる絵カードが取り出されるのを見て、「あ〜あ、またいつもの絵カードか!」とうんざりしている患者さんはおそらく私と同じく残念な気持ちだと思います。

そんな患者さんの気持ちを理解できず同じ絵カードを使い続けるSTの方も悪いのですが、患者さんの側からも「退院後必要になるはずの買い物の練習をしたい! ちょっと自宅に電話をかける練習をしてみたい!」などと申し出るべきではないでしょうか?

もちろん、この障害の重症度には個人差がありますから、ご本人が「自分にも何とかできそうだ、やってみよう!」と判断する限り、社会に飛び出して対人交流と経験を重ねながら「当たり前の生活を取り戻すこと」が大変重要と思います。

当事者セラピストとして

前項で「社会に飛び出せ」と書いたのは、2014年に出演した「NHKハートネットTV」の最終場面で、司会者から「この経験は研究者であり当事者である「関啓子」としての人生においてどのようなものだったか、これからどう生きたいか」という趣旨の質問を受けたことがきっかけでした。

要約すると、「私の障害の受け止め方とこのような障害を持ってしまった私の思い描く今後の生き方」が問われたことになるかと思います。

前半への答えは後述するように「過去に起きたことは致し方ないと受け入れる」という内容で、番組ではほとんど適切に表現できませんでしたが、後半については思い当たることがありました。