見よう見まねで針に黄糸を通し、オホトが絵付けした桜色の絹地に刺していく。刺繍の上手な黒妃に手ほどきしてもらうが、緻密さに根気が要ることに気づく。

「私には娘ばかり三人も。だから気が付けば針を手にしている」実は賑やかな娘たちから避難したいときもあると、そっと話してくれた。大王はお忙しく、普段は母親と子供たちだけの生活。でもまた、それが丁度良いらしい、羨ましいと手白香は思う。

「花の絵柄がどれも素晴らしいですが、民たちの身体に付いている印は」

「ああ、入れ墨のことね。男たちは成人と認められた者にその豪族や部族の印が入れ墨として入れられるみたいです。これは越人のご先祖様が、大陸から渡ってくる前からそういう風習があるそうです。女は肩に入れている人が多いです」と、横から目子妃が話しかけてきた。手白香は、海の男たちや農耕の民たちの入れ墨の模様を思い浮かべていた。

「そうですね、入れ墨で間違いなく同族か分かりますね」

「この国は、九州や新羅、大陸とも交易をしていて、その時に亡くなる者や、行方知れずの者を知るためにも役立っていると聞いています」

そういうことか、大陸人にしか考えつかない繋がりを見た思いだった。

「大王様、私を家族にしてください」

数日前、大連大伴金村から言い伝えがあった。河内馬飼首荒籠が大和豪族から分裂して、それぞれが戦いを始めたと報せてきたと。

――ああ、私には身を寄せる処がなくなってしまった――

「私を娶って頂けますか」

手を合わせ薄曇りのお月様に願い事をする様子を、高台から見守るオホトがいた。

 

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