しかし、次の瞬間、イザベラは分からなくなった。

「フランチェスコ様なのかしら」

目を凝らして見ると、その若者はフランチェスコの様にも見えるし、違う様にも見えた。イザベラは必死で若者を見つめた。見つめられて、若者は入口の看板の所で拳を握りしめて仁王立ちになっていた。

叔母に呼ばれてイザベラは我に返り、中へ入った。そして、出入口に近い一番後列の席に座った。

その時、どこにいたのか、従兄たち、ジョヴァンニとステファノとエンリーコが急に現れ、その若者の周りに寄ってきて若者を取り囲んだのだ。

「やっぱりフランチェスコ様なのかしら」

イザベラは、あんなに言って叔母にきてもらったのだから、叔母の前だけでも劇を見なくては申し訳ない、と思いながらも、どうしてもすぐにそちらを見てしまった。若者は相変わらず同じ姿勢で仁王立ちになっていた。

と、若者は急に駈け込んできて、イザベラのそばの席の人に話しかけた。なんとそこにはルチオが座っていたのだ。若者はルチオに話しかけながら、顔はこちらに向けていた。イザベラは、真っ先に眉を見た。あのつり上がった太い眉とは違い、随分ぼわっと広がった雲の様な眉だった。

イザベラは、はっとして若者の胸を見た。しかし、そこには紋章は無かった。イザベラは目を見た。若者は目を振り子の様に揺らせ、決して一点を見ることが無かった。

「違うのかしら」

その時、エンリーコが走り去るのが見えた。そして、そのままエンリーコは戻ってこなかった。

若者はまた駈け出して行った。やがて独り戻ってくると、今度は最後列のイザベラの席にほど近い所で仁王立ちになった。

「あっ、あの手は」

握りしめた若者の手の角度が、図書館で見たフランチェスコの手つきと寸分違わない様に見えた。

「やっぱりフランチェスコ様なのかしら」