そろそろ陽も落ちようとしている夕暮れどき。ふたりは現在、志村の代理で遺言状の公開に参加するべく、西部地方の山奥にある屋敷を目ざしているも、突如として降りはじめた激しい雪により、すべての目印は覆い隠されてしまっていた。
「このナビ、ちゃんとあたしたちを拾ってくれているかなぁ」
「うーん。多分……」
カーナビゲーションが指すマップと、実際の風景が大きく異なっている。
そもそも自分たちが走っている場所でさえ、本当にアスファルトの上なのかも怪しい状況で、WRCラリーよろしく、今はスピードメーター内に表記される、液晶タイプのトリップメーターだけが、唯一、曲がり道を知り得る情報となっていた。
「三百メートルだと……。ここ?」
ぶっきらぼうに『曲がれ』との矢印がモニターに出ているも、目の前には標識すらない。本来ならば躊躇すべきところであるが、美羽は指示どおり、ハンドルを左に切った。
「行っけー、プジョーちゃん」
彼女の愛車は、この探偵事務所を立ちあげた記念に購入した、プジョー405MI16X4なる、九十年代に生産された四輪駆動のセダンで、たまたま中古車屋の軒先に並んでいたのを見て即購入。なぜなら、かつてレースにおいて大活躍をした名車中の名車であり、どんな悪路でも走り抜けられるポテンシャルを秘めていたからであった。
「ははは、社用車だったら、こんな冒険しなかったですよね」
根っからのフランス車贔屓な美羽は、尾行や、普段の足がわりとして使う、比較的新しいタイプのプジョーも持ってはいるが、四輪駆動ではなかったがゆえ、しぶしぶながら愛着のある車を出した次第だった。
「ゴメンね。プジョーちゃん。危ない目に遭わせちゃって。ところで、もうすぐかな」
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