【前回の記事を読む】真っ白な峠道に無数のイタチが飛び出した……急ブレーキの直後、彼女の胸に嫌な予感が走った
第一章 爬虫類の棲む屋敷
「あと一キロと出てますよ」
先ほどの難所を越えて、しばらく走ると、今度はスキー場を思わせる見晴らしのよい、開けた場所へと出てくる。
ディスプレーが示すゴールは、この坂の上と印されており、道路脇には小さな案内板もあった。
「ありましたよ、所長。『山吹家 告別式』って書いてあります」
はやる気持ちを抑えられなくなったのか、富戸木は脱いでいた靴下に足を通しはじめる。
急な坂を上り切ると、そこは広く、平らな土地となっており、人工的なカーブを描く湖が目の前にあった。
「やっと到着ね……」
惰性で畔へと車を滑らせると、モニターから案内終了を知らせるメロディーが流れる。
美羽はシートに体を投げだすと、何事もなくたどり着けたよろこびを、全身で味わった。
「よかった。予定時間より、ちょっと早いくらい」
「これ以上、暗くなると、本当に危なかったですよね」
「無事に着いたし、それじゃあ帰ろっか」
「いやいや、なんでやねん」
どれだけ達成感があろうとも、これで終わりではなく、本番はこれから。
ふたりは後部座席へと手を伸ばすと、おのおの荷物を持ち、降りる支度を始めた。
「そうだ所長。着いたら高岡弁護士という方に連絡するのでしたよね」
「うん、頼む……。それにしても広いわねー」
空一面が真っ白で、景色がはっきりとしない。かろうじて判別できるのは、雪をかぶった樹木と、ほのかに白い湯気の立つ湖畔が山の向こうまでつづいているだけだった。
「初めまして。志村さんの代理の者です。ただいま到着しましたー」