相当な山奥であり、富戸木は電波状態を確かめつつかけている。なんとか繋がりはするも、波長が不安定なのか、ガサガサとしたノイズが混じっていた。

『はいはい、見えていますよ。私の後ろにつけていただけますか』

畔に駐車していたピックアップトラックがハザードを焚いたので、指示どおり、後ろへとつけ、停車させる。

志村から連絡を受けていた、高岡という若い弁護士は、彼女たちの到着を待っていた模様で、スーツの上から防寒ジャケットを羽織ると、ふたりが乗るプジョーへと駆け寄ってきた。

「――あっ……。は、は、初めまして、高岡と申します。わざわざお越しいただいてありがとうございます。さぁさぁ、どうぞどうぞ。ずいと中へお入りください」

よもやこんな綺麗な女性が来ると想像していなかったらしく、高岡は、一瞬の沈黙のあと、飛びあがらんばかりの笑顔になった。

「やーっと、到着しましたねー」

助手席から降りた富戸木は、首や背中を反らし、柔軟体操を始める。

事務所を出発して、すでに八時間半。横であぐらをかいて、お菓子を食べていただけだが、一丁前に疲れているようだった。

「ん?」

ふと富戸木の動きが止まり、きょろきょろと辺りをうかがう。美羽はトランクルームを開けると、怪訝そうな顔をしている彼に尋ねた。

「どうしたの」

「さっき変な声がしませんでしたか」

「声ってどんな?」

「『ぎゃー』って悲鳴です」

「空耳じゃないの」

今度はふたりして見わたすが、やはりなにも聞こえない。

車の横には水辺の事故から守るための祭壇があり、中には口が尖った、奇妙な魚の石像が設けられているだけ。