無機質なオブジェが喋るはずもなく、その横には、ひっそりと小型のソリが立てかけてある程度だった。

「……風鳴りだったのかな」

「そうみたいね。さぁ、行くわよ『プジョーちゃんロック』」

片手でトランクルームを閉じ、愛車に向かって呼びかける。

返事の代わりに電子音が鳴ると、ウインカーが点滅し、自動的にサイドミラーが畳まれてゆく。美羽があとから取り付けた、声紋による盗難防止装置だった。

「ゴメンね。しばらくひとりだけど我慢してね」

この極寒のなか、置き去りにするつらさが胸を締めつける。屋根やリアウイングに積もった雪を払ってあげると、あらためて弁護士へと向かい一礼をした。

「初めまして。志村さんの代理で参りました美羽瞳と、その局員。じゃなく部下……。うーん、まぁ、子分の富戸木ナンチャラです」

「ご足労さまです。もう誰も来ませんので、さっそく参りましょうか」

高岡は、もうもうと白い息を上らせて挨拶を済ますと、湖上に浮かぶ、山吹色をした建物へと案内をはじめる。

ちなみに、『浮かぶ』という表現は正確ではなく、建物の周囲一帯に、幅三十メートルにもおよぶ広い堀を設けて人工の湖にしてあるので、ただ浮かんでいるように見
えるだけ。

だがまるで中世時代の城塞都市を彷彿とさせる、堅牢でいて荘厳な佇まいは、なにか得体の知れないモノを研究している施設にも感じてしまい、美羽は眉をひそめた。

 

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