前月の賭場での上がりと分配方法についての報告を聞き、受け取るものを受け取った後、今後のことを話し合うのが常である。
牛鍋は、鉄鍋にぶつ切りの牛肉と葱を敷き詰めてから味噌だれをかけ、火にかけるという調理法で、暑さの残る九月初頭でも食べやすい。二人ともが食べきった頃合いで、工藤が聞いてきた。
「兄貴は馬かけ、観に行ったことあります?」
「いや、ないな」
工藤は頷いて、御猪口を空けた。
「あれを主催している競馬会が、資金繰りに困っているらしいんです。それで、新しい方式の馬券を売り出すことが決まってます。買う側が馬を選べるって話ですから、少しですが、賭け碁に似ていませんか?」
賭け碁は碁の真剣師同士を対局させ、その勝敗に金品を賭けさせるものだ。黒船来航より前のこと、東海道五十三次の四番目の宿場、保土ヶ谷宿で、商家の旦那連中や旅籠の主人、泊まり客らを相手にそうしたシノギを始めたのが、初代の仙石一家貸元だった。
「それに、一枚噛むつもりか?」
「噛むというよりは、乗っかるつもりでいます。見てもらいたいものもありますから、続きは外で」
工藤が銚子に残る酒を御猪口に注いで飲み干すと、浅田も飲んでいたビールを飲み干した。
店を出た後の工藤は、外国人たちがブラフと呼ぶ山手居留地の方へと、先に立って歩いていく。その道すがら、競馬の話を聞かされた。