【前回記事を読む】決裁が下りず帰れない私。仕事の責任と家庭の罵声に押し潰される夜
番外編1 1998年9月
所長の返事を知らされた。「あれでいいじゃないか。しつこいんだよ」と一喝されたと言う。突然、すごい勢いで私は私の自我を取り戻す。
そうだ、総会に出るのも、決算報告も改善提案するのも、私じゃなくて所長だ。ミスや不適切があったら、責められるのも、恥をかくのも所長なのだ。監査役の税理士として押印するわけだから、数字も内容も見ていないわけがない。そう考えると目の前が断然クリアになってくる。
直しはない。所長(ヤツ)はわざわざパートもどきに報告する必要なしと判断したのだろう。笑ってしまう。馬鹿みたいだ。本当に馬鹿々々しい。さてと、もうとっとと帰ろう。帰ったところで、面白くもない嫌みと罵りシャワーが待っているけれど。どうせ急いで帰っても、不機嫌の洗礼を浴びなきゃならないのは間違いないけれど。
なんなら、ケンタにでも寄って、チキンを思う存分子どもたちと頬張ろう、私たちのささやかなご褒美だ。理不尽な夫に分けてやる筋合いも気持ちもかけらもないから、夫のいない間に食べてやろう。
いやいや、待てよ。ひょっとしてケンタを差し出したら、夫もみるみるご機嫌になって、罵りシャワーをチャラにしてくれるかもだ。作戦がうまくいかなかったら、できるだけしゅんとした風を装って手短に許しを乞おう。まあ、出たとこ勝負だ。
ひと区切りついたね。誰も褒めてくれないだろうから、せめて自分で自分を褒めようか。9月の空はまだそんなに暗くはない。宵闇の空に安堵が心を染めていく。達成感なんてない。今日が終わったことが、今の私には一番のご褒美だ。