長年聴いていると、とりわけアマチュアの場合、聴く対象が気まぐれに変化する。そうした過程で、時代や国が異なり、ジャンルが異なる音楽が、何か共通点で結ばれているのを感じることがある。
たとえば一六、七世紀のマドリガーレの形式がロマン派のピアノ曲にあらわれたり、シューベルトの『冬の旅』のピアノ部分がアルバン・ベルクの発想を刺激したりというように。音楽は響いてはすぐに消え去るはかない芸術だが、楽譜一冊の身軽さで、国境や時代を軽く超えて人の心にしみてゆく。
場所や時代が変わると、その国の風土やその時代の気風に染め上げられたりもする。音楽の歴史を、音楽自体の形式変化だけでなく、そういう自然や社会変動の影響も加味して見直せないかという、とてつもない構想、というよりも妄想かもしれないものに取りつかれる。
この本は、そのようなアマチュアの耳で感じ、考えた音楽の面白さを書き集めたものである。したがって、オーソドックスな楽理や歴史観から見ると、音楽の把握が偏っていたり、史実の解釈が適切でないといった批判も可能かもしれない。その点は読者諸兄姉にご鞭撻願えればと思う。
とりあえず目次を見て、読者のご興味のありそうな話題を見つけて、音楽談義に加わるようなつもりで読んでいただきたい。
この談義の中には、音楽やその歴史を少しく抽象化して述べている部分もある。しかし、そういう場合も、その議論の対象となっている音楽を読者と耳で共有しながら語りたい。
その目的のために必要な限りで【推薦CD】を掲げさせていただいた。また、それらCDのかなり多くはYouTubeに取り上げられており、容易に耳にすることもできるので、精々それらの音を聴き楽しみながらお読みいただければ筆者の最もありがたく思うところである。
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