新参者

私はまだ退職したての駆け出しである。日中堂々と街中を歩くことは許されていないので、できるだけ自分の気配を殺すように生きている。

昼間に活動するようになって気付いたことが沢山ある。驚きの連続だった。

まずひとつ目がバスの車内。乗っているのは老人と障がい者だけである。皆さん例外なく、降りる時には「有難う御座いました」とお礼を言っていく。しかし、誰一人料金を払う気配がない。

そして次は映画館。シニア料金で観られるようになって初めて1人で足を踏み入れた。すると、男女問わず、自分と同じ境遇であろう人たちが、絶妙な距離を置いて座っている。

フィットネスクラブともなると、もう歴然である。見た目がまだまだ老人ではない私のような新参者は、隅っこの方で用事を済ませてそそくさと帰ってくる。

何処もかも、後期高齢者がコミュニティを築き上げ、新参者を寄せ付けない雰囲気を漂わせている。まるで、「まだこちらに来るのは10年早い。もっと働けるだろう」と言われているようだ。

そういう目で周りを見渡してみると、自分と同じ匂いを漂わせている人がいることに気付いた。同じマンションに住むあの人もこの人も、目立たぬようにごみを出し、何処かへス〜と消えていく。

今日は一体何をして時間を費やすのだろう。

 

 

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