宝塚デビュー
私の妹は、若い頃から熱烈な宝塚のファンである。私は、それを横目で見ながら、女性ばかりのミュージカルに何故それほど入れ込むのか理解不能だった。
ところが今回、妹からお誘いが掛かった。良い席が2枚取れたのにも拘らず、友達がドタキャンしてきたので行く気があるかとのこと。
一度も宝塚を観たことがないということは、関西に住んでいる人間にとって、文化的欠落を抱えて生きるようなものだ。こんな機会はないとふたつ返事で了承した。
当日、車の中で鑑賞のための心構えを延々とレクチャーされた。
「宝塚のファンは、親子何代も続く礎があること。今回のような良い席の取得は、ほぼ奇跡であること。ファンはスターの一挙手一投足を見逃すまいと真剣であること。観劇中は、咳払いひとつせず、身動きせずに鑑賞すること。誰が誰のファンだか分からないから、座席では感想を述べないこと」
ミュージカルを鑑賞するのに、こんなに沢山のハードルがあるなんて、まるで修行だ。それでも、妹に恥をかかせてはいけないと、言いつけを守り、約3時間の舞台を鑑賞した。
帰りの車の中で「どうやった?」と妹が聞くので、良い人生経験だったこと。美しい女性ばかりで圧倒されたこと。一般のミュージカルと違って、3枚目役も皆綺麗なので違和感があったこと。長時間のダンスにも拘らず、誰一人間違えずに踊っていたことに驚いたこと。
そして、何よりも、この関西の宝塚という小さな街に、長い年月を掛けて、世界に類を見ない文化を築き上げた先人の知恵と工夫に頭が下がったこと。以上の感想を述べチケットの礼を言った。
本当は、ラストのラインダンスが一番良かったなどという下品な感想は、口が裂けても言えなかった。
