【前回の記事を読む】他の人にはあんなに笑ったりするんだな、私には当たりがきついのに…。彼の知らない一面を見て、妙な気持ちになった
訳アリな私でも、愛してくれますか
「もし本当に人の好きなものをバカにするやつがいたら、そいつはろくでもないヤツだと思うけど。そんな人いる? 考えすぎじゃない?」
「そうかな? でも、小学校の頃とかは結構バカにされたよ? お前がその顔でアイドル好きだなんて笑えるってからかわれたし……」
「その人達がそのまま大人になっていないといいな」
「……うん。そうだね」
「俺は自分が好きなものなら、誰に何を言われても好きだってちゃんと言いたいけどな。最近はみんな、自分の好きなものは好きって主張できるようになってると思う。少なくとも、俺の体感だけど」
「豊橋は、それができるの?」
「できる」
「じゃあ、何買ったのか教えてよ。なんか、文庫本?だったよね」
「普通の小説」
「どんなやつ? 見せてよ、私だって見せたんだから」
「別にあんたが俺に見せたわけじゃねーだろ。レジの方見てたら、勝手に見えたっていうか……」
「あーもう、そういうのいいから! はい、見せて」
理子がそういうと、秋斗は素直に袋から少し本を出して見せてくれた。
「え……藤堂高虎……? これは……えっと、歴史もの?」
「そう。なんか悪い?」
「いや、悪くないけど……いや、ちょっと意外だったなと思って……」
「そっちも意外だけどな。レジでぼんやり、アイドルの写真集とか買う人いるんだなって思ってみてたら、アンタだった」
「買う人いるよ! 私以外にもいっぱいいるんだからね! 少なくともこの本屋では、結構売れてるっぽいんだから!」
「いつから好きなの?」
「ずっと昔から。一時期、めちゃくちゃ流行ったでしょ。あのときからずーっと私の中のアイドルは彼女たちなの」
「ふーん」
理子が推しているちーちゃんのいるグループは、何度も加入と卒業を繰り返していて、グループ自体の歴史は長い。昔、それこそ理子が小学生くらいのときは爆発的なヒットを飛ばしていて国民的アイドルだったが、今は黄金期のメンバーも抜け、世間からの注目度はそれほど高くなくなった。
だからグループ名は知られていても、世間の人からは今どんなメンバーがいるのかはよくわからないと言われるのがオチだ。だからこの秋斗の反応も、もうわかっていたことだった。