(あれっ!? 前からいたんだっけ……!?)
ふと、飲み会のときに今は新規事業開発部にいる、と言っていたことを思い出した。
(そっか、新規事業開発部は隣だもんね……なんでこれまで気づかなかったんだろう)
実は自分の視界に入っていたのに、そのことに全く気づかないでいたのだと思う。
(意外と私、周りのこと見えてないのかも?)
秋斗が他の人達と真剣に話しつつも、時折笑っているのをこっそり見つめる。
(なんか、私には結構あたりがきつい気がするけど……他の人にはあんなに笑ったりするんだな)
秋斗の知らない一面を見た気がして、妙な気持ちになった。
その日の夜、理子は仕事終わりに駅の中にある大型書店へと足を運んでいた。
(写真集たぎる~!! 早く見たい~今日は写真集眺めてるだけで終わるわ)
この日は理子がずっと昔から推している女性アイドルグループのフォトブック発売日前日だった。店頭販売限定の撮影オフショットDVD目当てで、ネット注文ではなく店頭予約をしている。
(ちーちゃんの写真、早く見たい……)
中でも一押しである『ちーちゃん』のことを思いながらレジに並ぶ。財布を取り出して準備しながら、長い列をくぐり抜けた。
「では1点で3,400円になります」
カードで支払いを済ませ、るんるん気分でフォトブックを受け取り、いざ帰ろうと踵を返すと──。
「あ」
「え……」
列の後ろの方に並んでいた秋斗と、ばちっと音がするほど勢いよく目があった。
「……で、実はアイドルオタクだったと」
「あんまり大きな声で言わないで! これ、会社の人にも友達にも秘密にしてるんだから!」
フォトブックを落とさないよう大事に抱えながら、理子は秋斗に反論する。
「だいたい、なんであそこにいたわけ?」
「隣の部屋なんだから、生活圏はかぶるだろ」
「それはわかるけどさぁ……なんであの場所であのタイミングなの……」
誰にも言わないできた生きがいとも言える趣味を、なぜこの人に知られてしまったのかと思わずにはいられない。
「なんでアイドル好きなこと、秘密にしてんの?」
「うーん、なんか、恥ずかしいから? 私がアイドルオタクだって知られるのが」
「なんで?」
「なんでばっかり……。そうだな、私は可愛いアイドルとは正反対のタイプだし、この年になってアイドルに憧れてるのかってバカにされそうで……」
次回更新は11月13日(木)、11時の予定です。
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