それから数週間して、幼ち園から「お宅の聡くんを、やめさせてください」と、手紙が来たので、母と父はすぐにやめさせたが、これは、聡が先生のおしりにかみついたからじゃなくて、聡の年があまり小さいからではないのだろうか。
だけど聡がワンパクであることは確かなようだ。話は先に進むが、聡が四才になった時、正式に幼ち園に入園したが、ある時、やっぱり幼ち園から電話がかかってきて、やめさせてくださいと言われた。
聡がこの時、何をしたかというと、おやつの時間におやつを食べた後、お茶をみんなで飲んだが、お茶わんが足りなかったらしい。そうしたら聡は、お茶の入ったヤカンを片手でかかえ上げて、つぎ口に直接口をあててお茶をぐいと飲んだのだそうだ。
「聡君、やめなさい」としかられると、父もご飯の時やっている、と答えたそうだ。幼ち園に呼び出されて先生からそう聞いて、母は真っ赤になったそうだ。ぎょうぎが悪いだけでは、幼ち園を首にならないだろうから、ほかにも余罪があるにちがいない。が、母はたのみこんで、引き続き聡は幼ち園に通った。
聡はそのご、たくさん食べる子どもになって、勢いよく食べるから大人たちが面白がって、自分の食べ残しを食べさせるから、余計に太ってしまった。しかし、そのきっかけは兄弟間の競争にあったかもしれない。
兄弟はおやつをあたえられると兄弟で分け合って食べる。兄貴である僕は、食べるのも自然に早いから、競争するつもりもなく、のんびり食べる。「そうりょうのじんろく」とか言うらしい。
弟はぼんやりしていると食べ損ねるから、作戦を練る。ピーナッツのおやつをもらったとき、僕と聡が同時に食べ始め、そのうち、皿の上のピーナッツがなくなった。僕は「もうなくなったか」とぐらいにしか思わなかったが、向かいの聡を見ると、まだ食べている。
どこから食べているかというと、左手に持ったピーナッツを食べている。どこでそのピーナッツを手に入れたかというと、はじめにだ。
食べ始めた時、二人とも右手で一つぶずつつまんで食べていたが、聡は、実は僕の目をぬすんで、左手で大量にすくい取り、手の中にかくす。そして右手で、いつものように兄と競争して食べる。その競争が終わった時、おもむろに左手のものを食べ始めるのだ。
こうしてまだ食べる速度がおそくて兄に負ける弟は、兄の一・五倍ぐらい食べることになるのだ。
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