「ん~、まぁね。わかるんだけどねぇ……」
「何が嫌なの?」
「いや、嫌じゃないの、でもこう、うちの会社ってさ、みんなメールでやりとりしてるんだけど、そこにチャットツールを入れたほうが効率がいいとか、今は業務が属人化してるからもっと体系的に整理して誰が抜けても誰が入っても業務の効率が下がらないように準備しておくだとか……」
「あー、なるほど……」
これによく似た話を、理子から聞いたなと思い出す。業務の効率化を上げるためのツール導入を、上層部が拒む。理子はずいぶんそれで苦労していた。
年齢が上の層は、新しいツールへの抵抗も大きく、もしかしたら下の年次の子達に使い方を教えてもらわなくてはならない状況になって、自分のプライドが許さないのかも知れない、とも言っていた。
(けど、そんなことお姉ちゃんに言えないしなぁ……)
とはいえ、姉の近くにいながらおそらくそのモーレツな働き方の被害を受けるであろう新人君を見過ごせない気もする。
自分のことをかばい続けてくれた姉と、見知らぬ新人の子、どちらの肩を持つべきかなんて言うのはわかりやすく答えが出る問だが、くるみが迷うのは自分もその新人君と同じ考え方だからだ。自分が非難されているようにも感じる。
「私達だって業務効率が上がるように考えたいけど、それをやる時間がなかったのよね、私達も。だけど、なんだか業務が属人化してるとか、誰が抜けても入っても~とか云々言われると、私達のこれまでのやり方が悪いみたいじゃない?」
「まぁね……」
「うちにはうちなりのやり方があるのにさ、なんでも効率がいいから~とか、こっちのほうが速い~とかってやってたら、まずみんなにそのチャットツールの使い方を教えたり、あれこれ準備したりしなきゃいけないじゃない。
そんな時間もないし、私も教えられる自信ないしで、そんな急な改革は無理だって……って呆れちゃうの。彼も若いし、まぁ理想と現実は違うんだよってことをちゃんと伝えるしかないのかな?」
次回更新は11月6日(木)、11時の予定です。
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