【前回の記事を読む】傘の中で彼の肩が少し触れた瞬間、心まで近づいている気がしていた

訳アリな私でも、愛してくれますか

「助教授じゃなくて、助教。笹川さんに聞いてから『助教』と『助教授』って違うのかな、と思って調べたんだけど、助教授っていうのはもう今はなくて『准教授』なんだって。で、『助教』と『准教授』は別物で──」

「そんなことはいいのよ、なんか2人進展してるみたいだね」

「うーん、そうかな? 今日ね、いつも公園でランチ食べてるんだけど、今度屋内ランチに行こうって話になった」

「屋内ランチ? それって、デートってこと!?」

「デート……!? そんなつもりなかったんだけど……」

「向こうは何も言ってなかったの?」

「特に、デートとかは……ただ、今日私が濡れちゃったことのお詫びとして誘われただけで……」

「どうなのかな~? 口実かもよ~」

「もう、からかわないでってば。私、先にお風呂入ってきてもいい?」

「うん、いいよ。まだご飯時間かかりそうだから」

「いつもありがとう。じゃ、入ってくるね」

くるみはそれだけ言って、風呂場へと向かった。

シャワーを終えて、テーブルについた。千春が作ってくれたオムレツとサラダ、ミネストローネが食卓を彩っている。

「そういえば、忙しくなるからしばらく行けないって言ってたよね? なんか、新人が来るからどうとか……」

「そうなんだけどさ……私はもう、若い子の考え方にはついていけないなぁって思った」

「どうして? そういえば、お姉ちゃんの会社のSNSが炎上してるみたいな記事も読んだけど」

「それね、やらかしたの私の部下なの」

「えっ、本当!? うわぁ大変そう……」

くるみがそう言うと、千春は大きくため息をついてみせた。

「まぁ、大変は大変だったんだけどね。26歳の、前職でオンラインマーケとかやってた子が入ってきたんだけど、その子がまた生意気でねぇ……そのSNSの運用を俺に任せてくださいっていうのよ」

「ええ~大物じゃん」

「いや、なんかさ、仕事とかもものすごく速いのよ。お願いしたこともササッとやっちゃうし、絶対に残業もしないで帰っちゃうのよ」

「まぁ、仕事が終わってるなら帰ってもいいんじゃない?」

「けど、そのせいで私のいつもの業務ルーティンが崩れるんだよねぇ。ちょっとは残業してくれたら、そのときに教えられるんだけど」

千春は残業上等、というタイプで、いわゆる『今どき』の働き方ではない。老舗の証券会社で鍛え上げられているし、千春が新卒の頃は残業してなんぼの時代だったと思う。

人として尊敬はしているものの、千春がもし会社の上司だったら、と思うと下につきたいとはくるみは思わないのだった。それでも、幼い頃からずっと自分の味方をしてくれていた千春にそれを伝えるのは難しい。胸の傷のことでいつでも慰めてくれた優しい姉に、貴方は時代遅れだとは言えなかった。

しかし、今回はせっかく新しく新人の子も入ってきたのだし、一言だけ添えてもいいかも知れないと思う。

「お姉ちゃんみたいに、残業する前提で働いてる人ばっかりじゃないから。特に今の若い世代って、みんな結構プライベートと仕事はきっちり分けてやってる人が多いと思うな」