7月の初旬の、少し蒸し暑い日、外で遊べる川遊びをしようと思っていた。学校の授業が終わると、隆は、突然、幸三に向かって大声で宣言した。
「今日は、魚取りをするから、学校が済んだら網を持って小川へ行くぞ。幸ちゃんはオレの子分だからついて来い!」
幸三は、授業が終わると、すぐ自宅に帰り、家の台所にいた母に、「隆ちゃんと川で魚取りをして遊んでくるから、暗くなるまでには帰る」と告げ、急ぎ足で隆の家へ向かった。隆の家に着き魚取りの準備をしている間、2人は昨日見たテレビ番組の主人公の活躍などの子供らしい他愛のない話をとりとめもなくしながら時間を潰した。
小川は、隆の家から、20メートルほど先の道路脇にあり、川幅は大人の背丈の2倍ほど。川底は子供の膝小僧あたりまでの浅瀬で、土手の両側から雑草が、垂れ下り黒い影を落とし、獲物たちの格好の隠れ場になっていた。
道具は、子供には不似合いなほど大きな四手網とガチャガチャ棒。それに大漁に備えて用意した亜鉛メッキの鉄のバケツであった。バケツは使い古されて底が、茶色く錆びて、側面は波型のきれいな亜鉛鍍金の模様が浮き上がっていた。
隆の背丈をはるかに超える竹棒の先端には、丸い穴の空いた四角い鉄板が3枚取り付けられており、竹棒がそれらを串刺にし、錆びついた釘で上下に固定してある。竹棒を動かすたびにガチャガチャ、ガシャガシャと金属同士が打ち付け合う音がした。
小川に着くと隆は、手慣れたしぐさで、右肩に四手網を担ぎ、左手にバケツとガチャガチャ棒を持つ、得意のポーズを決めると、戯けながら勢いよく正方形の四手網を、バシャと小川に放り投げ込んだ。
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