【前回の記事を読む】幸三少年の通う小学校はこぢんまりとした平家建ての木造校舎で建てられてから60年以上経つ。そのため来年3月には……
第1章
隣の席の聡子は、色黒の皮膚に、くりくりした目が印象的な丸顔。背は低く痩せていたが、田舎の女の子らしく、快活で物言いはハキハキしていた。
聡子の家は幸三の家から、400メートルほど山を上った坂道の途中にあり、見晴らしが良く、村全体が眼下に一望できた。
村の道は、ラクダの背中のように蛇行していて、近くに見えても実際の距離は子供の足には辛かった。
聡子は家の畑仕事を手伝い、2歳年下の妹の子守りで毎日が忙しい。学校が終わると、すぐに家の手伝いをしなければならないため、急いで家に帰っていった。
幸三は、学校では、4匹のウサギと5羽の鶏の世話をする飼育係を担当していた。餌は、生徒たちの家の残飯や余った野菜の端きれを持ち寄り合せ与えていた。
聡子は、生活係を担当していた。女の子らしい気配りで、生徒の洋服のボタンの掛け違い、手拭いや、爪の長さ、手の汚れなどを調べるのが主な仕事であった。
隆は、体育係であった。
教師は1人だけで校長も兼任していたが、小学校はまもなく閉校となるため、校長も退職することになっていた。
さらに学校には用務員が1人いて、2人で運営や管理が行われていた。当時、1人の教師が校長も兼ねる学校は、戦後によく見られる人員配置だった。戦後の軍国主義教育を反省し、生徒には個人の自由や新しい価値観、そして個人を尊厳するような教育方針に基づき指導していたが、教育資材をはじめ何もかも不足しており、創意工夫をしながらの授業を行っていた。