【前回記事を読む】「俺に彼女がいればダブルデートという名目で一緒に行動ができるし、一彦の反応を間近で見ることができる」

#1

「なんとか言ったらどうなんだ」

「何を言えと」

「何かあるだろう、返事とか」

「何か……頭の良いやつはヤバいことを考えてるんだなと思いました、まる」

「ふざけてるのか?」

「ブーメランって知ってる?」

言ってから思った。きっと西海なら知っている。たとえ話のブーメランじゃなくて、どこかの先住民族発祥の道具のほう。そんな触ったことのない道具の説明をされても困るから、さっさと話をつけてこの場をお開きにしよう。

「あのさ、西海は彼女ができればメリットがあるんだよね」

「さらに言えば、北田が相手ならデメリットが少ない」

「デメリットって西海の好きな相手のこと?」

「そうだ。ついでにお前が口を滑らせないように見張れる。口を滑らせたとしても早めに対処できる。良いこと尽くめだな」

「じゃあ、私のメリットは? 私は西海の彼女になるメリットがないんだけど、なんであんたと付き合わなきゃならないの?」

西海が意外そうに目を見張る。勢いに任せれば私が協力するとでも思っていたのだろうか。

残念だったな。私は押しに弱くはあるが、押し売りは買わないタイプだ。

「見張られる生活なんて絶対嫌だし、彼女になったらダブルデートって名目で大して話したことない人たちとわざわざ休日に出かけなきゃなんでしょ? なんでそんなことしなきゃなんないの。むしろデメリットしかなくない? 私が西海の彼女になるメリットは何? ないよね?」

私の突き放したような言い方に西海はぐっと息を呑んで考え込んでしまう。

一応弁解させていただくが、私だって相手が困ってどうしようもない状態ならこんな突っぱねた言い方はしない。でも目の前の男は自分の娯楽のために他人を巻き込んでストーカー紛いのことをしたいと言っているのだ。

誰がそんなことしたがるのか。どうして私がそんなことのために協力しなければならないのか。全部西海の都合じゃないか。