コラム②

雑司が谷界隈散策(二)――キシジンかキシジンか

都電(東京さくらトラム)の駅が「鬼子母(ぼ)神前」で、お参りする所が法明寺の「鬼子母(も)神堂」。地元では鬼のつのの(ノが)ない字を使っている。安産・子育ての神様でお宮参りには遠方からもやってくる由緒ある御堂だ。

節分や季節ごとの行事、それと御会式(おえしき)(十月の万燈行列)の時には盛り上がるが、普段は閑静な落ち着いた雰囲気の街である。

参道入り口にはユニークなカフェでもある蕎麦屋“茗荷茶屋”がある。以前本屋さんがあったところを買い取ってリフォームしたそうだ。近所の音大生や高齢者など老若男女が集うたまり場だ。店のオーナーが多趣味な方で、建築科の出身だから簡単な大工仕事は自分で仕上げてしまう。

この先の和敬塾(男子大学生寮)には村上春樹が学生時代に住んでいたこともあり、この店の二階には彼の愛読者が喜びそうな著書が並んでいる。

さらに参道を進むと「學問所雑司寮明哲院」なる古めかしい看板が目に留まる。その実態は正体不明だが、たまにバザーや読書会が開かれているみたいだ。何かここは異空間を感じる不思議な街である。

また、都電の線路を挟んだ反対側をしばらく進むと、旧高田小学校の跡地にできた雑司が谷公園がある。

そこから一昔前の巣鴨プリズン(古い地図を開くと巣鴨監獄という厳(いか)めしい表記があり、その後東京拘置所に名称と機能が変更)から変身を遂げたサンシャイン60方向を見ると、まさに隔世の感。タワーマンションが何棟か建って、私の生まれ育った日ノ出町という街の大変容を感じる。

サンシャイン60に隣接して噴水のある公園がある。そこに目だたないように巣鴨プリズンで命を絶った方々を偲んで『永久平和を願って』と刻まれた慰霊碑が立っている。

この公園はいま流行りのコスプレ衣裳を競い合う若者のメッカとなっている。ここに眠る人たちはどのような思いでこの賑わいを見守っていることだろうか。