【前回記事を読む】「そういう人が現れたの? それってオレ?」――結婚して50年。音楽番組で流れ始めた “ある歌” に合わせて、妻が歌い出し…

片想いだらけの青春

1 わが家に落雷 

小学校入学前のことだから多分四、五歳か、昭和二十年代の半ば頃だろうか。わが家が営む公衆浴場に落雷があった。

姉の話だと当時新聞にも載ったようだ。まだ幼くて記憶がおぼろげな頃だが、この時のことはハッキリと覚えている。

来客があり奥の和室で皆で歓談していたら、突然稲光とともに雷鳴が轟いて煙突にカミナリが落ちた。

当時、我が家には避雷針の設備がなかったため、室内のタンスの上に置いてあったラジオを通過して、その下で来客の相手をしていた母親の銀歯に伝わって、傍にいた私をかすめて地表に落ちた。

そのせいか私はカミナリにうたれていかれたらしいと周りは見ていた。自分自身は雷のエネルギーが体内に籠ったように思っていたのだが。

池袋(東京・豊島区)の駅前は最近徐々に変わり始めてきたが、タカセ洋菓子店は今でも千客万来、昔のスタイルのままで賑わっている。

母親と訪れたその上階にあるレストランで海老フライとクリームソーダをごちそうになるのが一番の楽しみだった。

まだテレビも他の娯楽もない時代で、楽しみといえば風呂屋の資材置き場の脇の空き地に紙芝居屋がやってきて、黄金バットなどを演じていたのが懐かしく思い出される。

小学校の四年と五年の夏は、からだの弱かった母親に付き添って、湯治宿として評判の群馬の四万(しま)温泉で過ごした。

ある夕、母親が風呂に行っていて留守の時に、遊び仲間で姉御肌の高校生があたりを窺いながら部屋に入ってきた。