コラム①
雑司が谷界隈散策(一)─不思議な光景
かつて消滅可能性都市と話題になった豊島区だが、その中心池袋駅から地下鉄副都心線で一駅隣の雑司が谷駅は賑わうターミナル駅の「隣の駅」とは思えない風情のある街だ。
早稲田と三ノ輪橋を結ぶ都電(東京さくらトラム)では、なぜか雑司ヶ谷駅よりも鬼子母神前駅の近くにある(この周辺は再開発が急ピッチで進んでいて、その謎は近い将来に判明するかも)。
雑司が谷というと、まず都営の雑司ケ谷霊園が思い浮かぶ。夏目漱石が眠る墓地で有名だ。古老の話によると、漱石の墓は搬入のとき墓石が重くて護国寺の坂を登るのに牽引 (けんいん)の馬が悲鳴をあげたという。
墓石には「文献院古道……」で始まる重々しい戒名が彫られているが、なぜか文人漱石らしくないというのが私の印象だった。
一方、よく対比される森鴎外は〝陸軍軍医〟という厳(いか)めしい肩書の持ち主だが、「余ハ石見人森林太郎トシテ死セント欲ス」という遺言通り、
その墓には「森林太郎墓」とあるだけで、ひっそりと眠っている。私にはどちらかといえば鴎外の墓の方が漱石の墓のイメージに合うのだが。
その漱石の墓の先には「近代演劇の父」と言われた島村抱月の墓碑があった。自然石に刻まれた格調高い文章は高校生のとき暗誦して、今でも諳(そら)んじて言える。

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