【前回の記事を読む】「予防は早い者勝ち」――健診で「血糖高めです」と言われたら早めに受診! 治療が早いほど薬代がかからずお得に
第1章:糖尿病の病態・疫学
19. インスリン、質の低下(キャッチャーが悪い)
M:ここではインスリンの働きが悪くなる要因のもう一つ、「質の低下」を説明していきます。質の低下は、インスリンそのものの質が低下したのではなく、インスリンの受容体、すなわちキャッチャーの質が悪くなった状態です。ちょっと難しいですね……。
A:質が低下=ピッチャーが投げる球の質が低下、という印象を受けます……。
M:ややこしくてすみません。実は質の低下という言葉は、インスリンの働きを量と質という観点で説明するために私が勝手に作った言葉で、インスリンの効きが悪いというのが正しい表現です。医学用語ではインスリン抵抗性といわれています。
A:ググッ……全然分かりません。
M:それでは図10で説明しましょう。インスリンの効きが悪いという状態は、インスリンと血糖値が1:1で釣り合うのを正常としたときに、インスリンが10あって、ようやく血糖1と釣り合う状態です。インスリンがたくさんないと血糖値が下がらない状態で、車で例えると燃費が悪い状態と言えるでしょうか。
A:ということは、インスリンの効きが悪い人はインスリンを無駄遣いしていることになりますね。貴重な資源なのに、ものすごくもったいない気がします!
M:インスリンの無駄遣い、すごく良い表現です。少ないインスリンで血糖値が下がった方が絶対的にお得ですよね。私は少しのインスリンで血糖値が下がるインスリン燃費が良いタイプを「エコカーな人」、悪いタイプの人を「アメ車な人」と呼んでいます。

A:エコカーな人とアメ車な人、同じ人間なのに、なぜこんな違いが起こるのでしょうか?
M:一番の要因は体重です。太ってくると内臓脂肪が悪玉ホルモンを大量に分泌して、インスリンの効きを悪くしてしまいます。つまりピッチャーは球を投げているのに、キャッチャーがきちんと働かなくなるのです。
A:なるほど! 痩せている人はキャッチャーが優秀、太っている人はキャッチャーがいまいちということですね!!
M:きれいに整理してくれてありがとうございます。インスリンの質の低下は、キャッチャーの質が悪くなった状態だということがイメージできたと思います。
A:アメ車体質をエコカー体質に変えれば血糖値が下がりそうですが、それって可能なのでしょうか?
M:ズバリ、可能です。体質を変える方法の一つは痩せること。痩せれば内臓脂肪が減って悪玉ホルモンが減るので、インスリンの効き(キャッチャーの質)が良くなります。あともう一つ良い方法は運動です。運動をするとインスリンの効きが良くなることが証明されています。
A:質の低下は、減量と運動で改善できる。覚えておきます! ちなみに、以前習った量の不足は減量などで回復できるのでしょうか?
M:残念ながら、量の不足は自分の努力では改善できません。量を増やすためには薬の力が必要なので、そこは医師にお任せしましょう。ちなみに、質の低下には内臓脂肪が関係しているとお話ししましたが、次の項以降でもう少し詳しくお話ししたいと思います。