(村木)

私は悩んだあげく、ここはやはり紹介者の住田さんに恥を忍んで相談する以外ないと思いました。契約を守らないで、家主を責めるような言い方なら、解約してもいいと考えていると伝えました。私の話を聞いて、住田さんは同感しておっしゃいました。

「それはまずいですね。契約は守るべきです。紹介者に連絡をして、注意しておきましょう」

紹介者というのは、彼女の年上の同棲相手ではないかと気がつき、私は何となく面倒なことになりそうな予感がしました。

「ちょっと待ってください。もう少し様子をみることにします」

私は、住田さんにはしばらく伏せておくようにお願いして、一旦帰宅しました。すると間もなく、部屋代の二ヶ月分は無事に振り込まれていました。

そして、いつの間にか家の周りのフェンスにはピアノ教室の看板が二枚も掲示され、門扉の前には『飛鳥ピアノ教室』と書かれた三メートルもあるのぼり旗が、堂々と立て掛けてありました。私が出入りする際は、いちいち退(ど)かさなければなりません。

リビングの窓や壁にも、ポスターがべたべたと貼られていました。私には一言の断りもなかったけれど、トラブルになるのが怖いので、見て見ぬふりをしていました。