自分の悲鳴で目が覚めた。動悸が激しい。閉じたまぶたの裏に、涙がにじんでいた。

今日子は身じろぎもせず、じっと横になっていた。すぐには目を開けたくなかった。涙がこぼれるのがわかっていたから。

部屋は冷え切っているのに、汗をかいていた。体からすえたような匂いがする。

夢を見ていた。とても怖い夢だ。でも思い出せない。

いや、思い出したくない。思い出すと泣いてしまう。そう思った。

ベッドに横たわったまま呼吸を整えた。指でまぶたを押さえ、ゆっくりと目を開けた。涙が一滴こぼれた。

壁に掛かっている時計を見た。午前六時二七分。閉じた窓のカーテンの隙間から朝日が射している。

起き上がろうとしたそのとき、腹部に強烈な痛みが走った。息が詰まる。喘ぎながらベッドから抜け出した。

脂汗が噴き出る。這いながらトイレを目指す。ノブに手をかけてドアを開ける──。と同時に吐いた。

吐しゃ物を床に巻き散らかす。涙が溢れる。嗚咽が止まらない。顔を伝うその涙が、悲しみなのか、苦しみなのか、今日子にもわからなかった。

次回更新は10月19日(日)、21時の予定です。

 

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