【前回の記事を読む】「おまえのせいで父親も弟も死んだ」自分の悲鳴で目が覚めた。動悸が激しい。閉じたまぶたの裏に、涙がにじんでいた
第一章
ジョン・レノンを聴いていた。ジョンの声は博昭を落ち着かせた。
愚連隊のメンバーといるときはラップなども聴いてはいたが、それほど好きではない。弱い犬がきゃんきゃんと吠えているようにしか聴こえないからだった。
あの男もよくジョン・レノンを聴いていた。不思議だったのは、レボリューションだの、何だのと叫んでいた怒りのジョンではなく、愛や平和のメッセージを歌う、晩年のジョンの曲ばかりを聴いていたことだ。
ラブ&ピース。博昭にはわからなかった。あの男の心理が知りたかった。
養護施設には職員用の心理学の本がたくさんあった。博昭は心理学の本をむさぼるように読んだ。
結論。あの男は病気だ。博昭は曲を止めた。博昭は椅子を壁につけて、部屋に小さな空きスペースを作った。そしてブリーフ一枚のまま、平行立ちに構えた。
両手を正拳に握り交差させる。息を丹田まで入れると、口から一気に息を吐いて姿勢を整えた。空手の呼吸法である《息吹》。これを三回繰り返した。
終わると椅子を元に戻して腰掛けた。机の上に置いてあったボイスレコーダーを手に取る。巻き戻す。再生。