【前回の記事を読む】「おまえは罪人だ」その声は悪夢の中か、それとも現実の断罪か――?
第一章
意識が朦朧とする。誰かに腕をひっぱられた。今日子は無我夢中でしがみついた。
「おまえは自分が助かりたいがために弟を殺した。おまえは人殺しだ」
やめて、もうやめて。
「おまえのせいで父親も弟も死んだ。見ろ」
それは今日子の目の前に聡を突き出した。透明なそれの腕に抱かれた聡の体は痙攣していた。聡の目が開いた。目が合った。聡が言った。
「お姉ちゃん。どうして」
「ああああっー!」
今日子は泣いた。ごめんなさい、ごめんなさい。それが顔を近づけてきた。
「それだけではない。おまえはまた奪った。自分の欲望のためにまた奪った」
顔が変形した。顔は……。河合だった。
「おまえは夫を、父親を、妻から、子供から奪った」
河合の顔をしたそれは、今度はパパを突き出した。パパが口を開いた。
「今日子。どうして?」
今日子は言葉にならない声を上げた。涙が溢れて止まらない。
「おまえは自分のためなら何もかも奪う。おまえは悪魔だ。おまえは──」
「やめてー! パパー! 助けてー!」
大音量がした。体が地面に叩きつけられる。全身に痛みが走った。泣きながら顔を上げると──。
パパと聡が横たわっていた。目玉が飛び出し、スポンジのような舌が口から突き出ている。その表情は苦しみに歪んでいた。パパと聡は死んでいた。