【前回の記事を読む】真夏のプール、そして雷鳴――パパの背中を見ていたあの日の出来事

第一章

立ち込める煙の向こうに目を凝らす。人の気配がない。再び轟音がし、閃光が世界を照らした。今日子は耳を塞ぎ、目を閉じた。

背中に冷たいものが当たる。雨? おそるおそる目を開けた。目を疑った。プールの水が竜巻のように回転しながら天に向かって噴き上がっている。それは水というより、何か得体の知れない生き物のように見えた。

竜? 今日子の脳裏にそんな言葉が浮かんだ。竜は何かを抱いていた。人……。まさか……。

今日子は目を見開いた。聡。今日子は立ち上がった。

「今日子──!」

パパが叫んだ。振り返ると、パパは瓦礫に挟まれていた。顔面から血を流している。駆け寄ろうとすると、地面がまた強く揺れた。

動けなかった。何かが今日子の首に巻きついた。どろりとした触手のようなものが体にまとわりつく。腕、腰、足。足が地面から離れた。吊り上げられる。

濁流のような音がした。体が回転する。静止した。目を開ける。視界の先で竜がうごめいていた。

水の中に聡がいた。聡はそれに抱かれながら目を閉じていた。それがぐにゅぐにゅと形を変えた。ふくよかな女性のシルエット。

それの手が伸びた。手が引き寄せられると、そこには──。パパがいた。

「パパー!」

今日子はおもわず叫んだ。人型に顔らしきものができた。

「おまえは罪人だ」

それは言った。