「おまえの弟は生きられた。それなのに殺された。おまえに」

それの言葉が頭の中でリピートする。おまえの弟は生きられた。それなのに殺された。おまえに。

そうだ……。私は殺した。聡を殺した。

溺れていた。懸命に手足を動かしながら、海面に出ようともがいていた。上昇しようとしたそのとき、何かに足をつかまれた。

沈む。今日子は足をばたつかせた。息が苦しい。何かが足をつかんで離さない。いくら足を動かしてもそれは足を離さない。引きずり込まれる。

今日子は思いっきり、それを蹴った。離れない。死にたくない。蹴る、蹴る、蹴る。ついに手が離れた。体が軽くなる。

今日子は足元に目をやり、水中に沈みゆくそれの正体を確かめた。聡──。

聡は両手を伸ばしてもがいていた。その顔は苦痛に歪んでいる。一瞬、目が合った。お姉ちゃん──。

声が聞こえたような気がした。

「聡!」

叫ぼうとしたら水を飲んだ。苦しい。両手を掻いて浮かび上がろうとする。

次回更新は10月18日(土)、21時の予定です。

 

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