【前回の記事を読む】鏡に向かって化粧をする母。いそいそと身支度をする母。下心丸出しで母を見る男たちの下品な顔。母に覆い被さる男たちの醜い体…
第一章
パパが鼻歌を口ずさんでいる。ビューティフォ、ビューティフォ、ビューティフォ、ビューティフォガール……。
サビ以外は何を歌っているのかはわからなかったけど、優しい歌であることはよくわかった。パパは上機嫌だった。
強い日差しに目を細めながら、今日子はパパの背中を見ていた。丘の上の市民プール。ママと口喧嘩したパパは、今日子と聡を連れてここにやってきた。
パパは学生時代に水泳部で活躍したということもあり、海やプールが大好きだった。潜水が得意で、ダイバーのように水に潜っては、子供たちの足をひっぱって喜んだ。そんなときのパパは、どっちが子供なんだと思うくらいに楽しそうだった。
聡はいま泳ぎの練習の真っ最中。今日子はパパの背後で寝そべって、真夏の太陽を浴びていた。パパは鼻歌を口ずさみながら、ときおりプールで泳ぐ聡に声をかけてはアドバイスをしている。
突然、今日子の顔に何かが飛んできた。咄嗟に手で払いのける。芝生の上に落ちたその物体を見た瞬間、今日子は小さな悲鳴を上げた。