【前回の記事を読む】バカな女だ。ただのバカか? 悲劇のヒロイン気取りか? それとも退廃的な快楽が好きな変態か? 男もクソだがあの女もクソだ

第一章

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今日子が河合に惚れているのはすぐにわかった。ほかの連中には見せないような笑顔を何度も見せていたからだ。河合は女の扱い方にも慣れており、たびたび博昭を感心させた。と同時に博昭は嫌悪した。

その嫌悪感は激しく、博昭自身、湧き上がる暴力衝動に困惑した。ケータイが震えた。バイブモードにしていたのだ。画面を見た。風間だった。電話に出ると、風間はすぐに本題に入った。

「どや? 変わりはないか?」
「あの女、何か変だ」と博昭は言った。
「あっ?」
「きょう、突然路上でうずくまりやがった」 

風間が息を吸ったのがわかった。

「なにがあった?」
「ゲロを吐きそうに見えたけどな」
「吐きそうだと?」
「通りすがりのババアに介抱されてたぜ」

風間が黙った。何かを考えている。

「妊娠かもな?」

博昭は素っ気なく言った。

「そう思うんか?」
「相手はあのクソ野郎だからな」
「クソ野郎?」
「あいつは女をオモチャだと思ってやがる」
「なんでそう思う?」
「他にも女がいる」
「なに?」
「またもや劇団の女だ。君島良美。看板女優。しかしまあ、ハーレムだな」

博昭は鼻で笑った。風間は電話の向こうで沈黙している。少しの静寂のあと、風間が言った。

「工藤ちゃん。そろそろ接触してくれんか? やり方は任せる。金でも何でも必要なもんは言うてくれ。すぐに手配する」

博昭は首を振った。やれやれ、いったいどうしてこの俺があんな不倫女と接触しなければならないんだ。

「あの女、あんたの何なんだ?」
「まだ言えん」
「まさかあんたの愛人とか言うんじゃないだろうな? 若いねえちゃんの取り合いか? カンベンしてくれよ、おっさん」

博昭はあざけるように笑った。

「調子にのんなや」

風間の声が低くなった。

「いらん詮索はすんな。それとー」

電波が悪いのか、風間の声が聞き取りにくくなった。

「あの娘には俺のことは内緒や。わかっとるやろな」