【前回の記事を読む】「もうこそこそする必要がない」謎めいた依頼の裏に隠された衝撃の真実とは――?

第二章

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かつて風間は青森で林檎園を営んでいた。風間には商才があったらしく、一時期の経営は絶好調で、林檎園以外にもさまざまな事業に手を出していたようだ。

風間は『青森の雄』として東北の経済界でも注目をされていた。風間には妻と息子がいた。息子の名前は千秋。作っていた林檎の名前、千秋(せんしゅう)から名付けた。

風間家の未来は前途洋々に思えた。風間が経営でつまずいたきっかけは台風だった。

一九九一年。大型の台風19号が青森を直撃した。青森の農園の被害は甚大だった。風間の林檎園も例外ではなかった。その被害はすさまじく、風間はひとり林檎農園で立ち尽くした。

そこからの転落はあっという間であった。新事業のために銀行から大型の融資を受けていたのだが、その返済が滞り始めた。

新事業も撤退した。撤退にもコストがかかる。風間は金策に奔走した。金を返すためにまた金を借りた。

借金はみるみる膨れ上がった。風間は酒に溺れるようになった。べろべろに酔っては、妻と息子に当たり散らした。ときには暴力も振るった。

酔いが覚めると自己嫌悪に陥ったが、自分への嫌悪感を忘れるためにまた飲んだ。その繰り返し。

嫌気がさした妻は男を作って出て行った。妻は気難しい息子も見捨てた。千秋が風間に似ていることも理由であった。

男二人の生活が始まった。それでも風間は酒をやめられなかった。