千秋は思春期になった頃からグレ始めた。何度も学校を停学になり、そのたびに風間は呼び出された。

千秋が高校一年生のとき、バイクの無免許運転で警察に捕まった。家に戻ってきた息子を風間は殴った。軽く一発のつもりだった。

だが、千秋の反抗的な目を見たとたん、風間の怒りが爆発した。それはまるでマグマのようだった。すべての怒りが風間の心から噴出した。

経営、林檎農園、銀行、逃げ出した妻、白い目で見る親戚、近所の連中。誰もかれも俺をバカにしやがって! 息子までも、俺を蔑んだような目で見やがる。

見るな、そんな目で俺を見るな。気がつくと、千秋が血まみれで倒れていた。

千秋は泣いていた。そして小さな声で呟いた。

「母さん……」

我に返った風間は息子を抱き締めた。泣きながら詫びた。だが、千秋はすすり泣くばかりであった。その日以来、父と息子の関係は完全に壊れた。

千秋の十七歳の誕生日。風間は息子のために誕生日ケーキを用意した。子供の頃から大好きだった駅前の洋菓子店のチョコレートケーキ。名前と誕生日も、ホワイトチョコで書いてもらった。

だが、千秋は帰ってこなかった。待てども待てども、玄関の扉が開くことはなかった。

警察から電話があったのは夜の九時過ぎだった。風間は最初、刑事が何を言っているのかわからなかった。

「千秋……」

風間は息子の名前を呟いた。千秋が死んだ。子供の頃に通っていた剣道の道場が入っているビルから飛び降りた。遺書が残っていた。その手紙には、両親への感謝と詫びの言葉が綴られていたという。

風間は咆哮した。自分で自分を殴りつけた。声が嗄れるまで、風間は叫び続けた。

次回更新は11月4日(火)、21時の予定です。

 

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