生活費は、寿司屋のアルバイトと、イベントのキャンペーンガールの仕事などで何とかしているようだった。見たところ派手ではなかったが、貧しそうでもなかった。大学は一年で中退していた。よほど演劇の魅力に憑(と)りつかれたのだろう。
中退した今日子の選んだ行き先が、現在、劇団員として在籍している『幻影機関』である。そしてあの男と出会った。河合幸一。
カリスマ演劇人で、名うてのチャラ男。博昭は何度か実物の河合を見ていた。今日子を尾行しているときに見かけたのだ。
茶色く染めた髪にサングラス。背丈も博昭よりさらに高い長身。立ち振る舞いもハリウッドの俳優気取りで、いつも人に見られていることを意識しているような男だった。
不倫。
バカな女だ。ただのバカか? 悲劇のヒロイン気取りか? それとも退廃的な快楽が好きな変態か? 男もクソだがあの女もクソだ。おとなしそうなツラして、あんなペテン師とセックスしてやがる。
博昭にはわからなかった。今日子の気持ちが理解できなかった。
次回更新は10月15日(水)、21時の予定です。
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