【前回の記事を読む】女優として成功するまでは恋愛禁止――そう誓った私が、彼に抱かれ心まで奪われていった理由は

第一章

4

食事を済ませたあと、博昭は電車を乗り継いで、町田のホテルに入った。風間が用意したビジネスホテル。部屋に入ると、服を脱ぎ、ブリーフ一枚になった。

それから、腹筋百回、腕立て百回を各三セットこなし、シャワーを浴び、ミネラルウォーターを飲んだ。裸のまま備え付けの椅子に腰掛け、パソコンを起動する。女のことを考える。

下北沢の駅前でうずくまった女。風間が依頼をしたターゲット。

パソコンが立ち上がった。2000年問題だのなんだのと騒いでいたが、パソコンは正常に起動した。風間からメールで送られてきた調査ファイルを開く。

あの女の情報。もうすでに何度も見ているが、本人を観察した後はかならず見るようにしている。情報に血肉を与え、存在を明確にするために。

女。雨水今日子。二十二歳。博昭より二歳年上。写真を眺める。

舞台で撮られたものであるためか、実物の印象とは若干違う。実際に見た雨水今日子は小柄で華奢だったが、舞台上ではより大きく見える。また、写真ではショートカットの髪が、現在は肩まで伸びているため、実物の方が女らしく見えた。

さすがに女優を目指すだけあって、目鼻立ちははっきりしている。ただ、泣き出しそうな二重の目は、森で迷った小鹿のような雰囲気で、女優をやるにしては少し頼りないような感じがした。

風間の依頼は奇妙だった。

「ある女性をしばらく内密に監視してほしい。とりあえずは一週間くらい。頃合いをみて、こっちから連絡するさかい、見つからんように尾行してくれ」

そう言うと、風間は自分の財布から札束を取り出した。

「とりあえず五十万。活動費や。足りんかったらいつでも言うてくれ」

風間はテーブルに札束を置くと、博昭をじっと見つめながらこう言った。

「理由はまだ聞くなや。工藤ちゃん」

あれから一週間。女は日に日に元気がなくなっていくようだった。そしてきょう、突然路上でうずくまった。あの女、病気か?

ファイルを読んだ。ファイルには黄ばんだ新聞記事のコピーが挟んであった。

次回更新は10月14日(火)、21時の予定です。

 

👉『永遠と刹那の交差点に、君はいた。[注目連載ピックアップ]』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】「大声を張り上げたって誰も来ない」両手を捕まれ、無理やり触らせられ…。ことが終わると、涙を流しながら夢中で手を洗い続けた

【注目記事】火だるまになった先生は僕の名前を叫んでいた――まさか僕の母親が自殺したことと今回の事件、何か繋がりが…?