今この部門で働いているのは、千春の他、41歳の年上部下である岩下という男と、48歳の派遣社員の女性だけである。チームメンバーの年齢差が若干気がかりではある。

(外資系企業で、オンラインマーケティングか……でも、面接の評価すごく高いんだよね……えーっと、うちに来るのは……9:10!? え、もう来る頃……)

顔を上げると、ちょうどオフィスに入ってきた人事の人と目が合う。

「水瀬さん、お疲れさまです」

「あ、お疲れさまです」

「新しく入社された吉川さんです」

「吉川礼です。よろしくお願いします」

人事の人の隣にいたのは、カジュアルなスーツに茶色い髪、色素の薄めな見た目の男だった。

(一番苦手なタイプかもしれない……軽そうだな……)

一応社内規定は私服可、染髪も華美ではなければよく、外部クライアントとのやり取りが少ない内勤組はどんな髪色でも許されてきた。とはいえ、今の部署の雰囲気とは180度と言っていいほど違う。

「では、あとはそちらでお願いしても良いですか?」

「はい、ありがとうございます」

人事の人を見送り、礼と向かい合った。

「改めまして、マーケティング部門のリーダーの水瀬千春です。一応私が直属の上司にあたるので、何かわからないことがあったら聞いてください」

「はい」

「うちはちょっと今人手が足りてなくて、個別に詳しい研修とか出来ないの。あんまり細かいことは教育できないかもしれないけど、中途だし大丈夫よね?」

「はい、大丈夫だと思います」

「これから朝会なので、そのときに自己紹介を──」

「水瀬さん!」

慌てた声に振り向くと、別部署でマーケティング担当として働いている同僚が呼んでいた──。

その日は結局、朝会はスキップとなった。というのも、千春の部署で担当しているSNSが炎上し、ネット上でかなり騒ぎになっているという話が入ったからだった。

SNSの運用を担当していたのは、41歳の男性社員、岩下である。千春は朝のルーティンをこなすより先に、岩下とのミーティングをセットしすぐに対策について話し合うことにした。

バタつく中、千春は礼に声をかける。

「吉川君、ごめん。PCのセットアップとか、できるところは社内wikiにあるマニュアル見て進めておいてくれる?」

「わかりました。それが終わったら、何かすることはありますか?」

「終わったら……うちのオンラインマーケティング部門の概要資料と各種アカウントを覗いて、何か課題とか思いつく限りでいいから出してみてくれる?」

「はい」

礼は素直にうなずいて、自分のパソコンの方に向き直った。

次回更新は10月9日(木)、11時の予定です。

 

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