【前回の記事を読む】会社の理不尽に苛立ち心が揺れる私へ、「誰も同じ思いをさせない」と語った彼の優しい声に心が和らいだ

訳アリな私でも、愛してくれますか

「……だったら、私に今できることは、相手を反面教師にすることと、この負の連鎖を続けないこと、ですね」

「……はい」

くるみはぐっと背伸びをして、大きく息を吸った。話さなくても理解してくれる人がそばにいると、こんなにも心強い。

「……なんか、笹川さんって不思議ですね。なんであれだけのことしか話してないのに。おかげで少し気が晴れました」

「理屈っぽいやつだなと、思いはしませんでしたか?」

「全然思ってないですよ」

「それは一安心です。また何かあったら、吐き出しに来てください」

「はい。ありがとうございました」

初夏の風が2人の間を吹き抜ける。花壇から花の香りを引き連れて、空へと帰っていった。

千春はくるみからのメッセージに返信しながらオフィスの入室カードをICカードリーダーにかざし、ドアを押し開ける。

(全く、こんなに忙しいのに新人入れるとか……人事もどういう采配してるんだか)

元々違う部署で採用する予定だったらしいが、その部署が多忙を極めているらしく、今は教える人手も足りないと言って受け入れを一時的に断ったらしい。

要するに、この会社でどういうことをやっているのか、会社の雰囲気はどんなのだとかを勉強させて、いい感じになったらこっちによこせということなのだ。そのせいで千春は、面接もしていない部下を持つことになった。

(うちの部にとっては何の得もないのに……)

千春のいる部署はそれほど大きくない。大手証券会社の中でも、ある金融商品のマーケティング部門なので、チームメンバーは4人しかいない。

その上うち1人が他部署のヘルプにいってからは、業務にもあまり余裕がなくなった。

(どう考えても、うちの方が人手不足なんだけどな……)

しかし、この状況をどうにかして乗り切るしかない。千春は前年度末の人事面談で、もっと経営に近い部署で管理職をやってほしいと言われていた。異動のためにまずはこの部署を自走できる組織にすることを求められたらしい。

(この新人教育も、うまくこなすしかないよね……)

人事部からのメールに添付してあった、新人の履歴書を眺める。

(26歳か……若いな。いくらITコンサル系出身とはいえ大丈夫なの?)