【前回の記事を読む】「だんだん、この国の雲行きが、あやしくなってきた」どう生きていけばいいのか...大人が子どもに学ぶべき素朴さとは?

サウスアルポス

兎岳の高地には、兎さんたちの好きな植物はなく、兎は見かけない。

天敵から身を守るハイマツの王国なので、雷鳥さんがすみかに使っている。西洋では、雷鳥をディナーコースで食べちゃうようだ。日本では、雷様の使いとして、昔から大事にしている。

そのため、日本の雷鳥さんは、人間がとても大好き。子どもを連れて、挨拶に来てくれる。

兎さんといえば、野っ原を駆けめぐっている。

“鹿を追うもの兎をかえりみず”という。

誰が山の名をつけたかわからないが、兎のかたちをしている山だからなんだな、きっと。

ほいっほいっほいっ(おじさんのわらい声)

おじさんは、昔は鹿ばっかり追っていたので、大きな得も、小さな得も得られなかった。ここの大人たちときたら、利益ばかり求めるから、大事なことを忘れている。

鹿を追うもの山をみず(2)このようなことをやってるから、

鹿をさして馬となす(3)と、優しさを勘違いしている。

先輩たちのいうことが身に染みていて……。とても、まとを射ているんだよ。

この大鹿村は美しい村と呼ばれている。

“人が住む里”と、“動物や高山の花たちが自由を謳歌する山”との、境目……。人と自然との出会いの場所なんだろうと思う。

ここは大断層“中央構造線”が通っている。宇宙からもくっきり見える断層らしい。きっと、限りない可能性が湧きあがってくる土地柄なんだろう、とおじさんは希望を持っているんだよ。

大きい鹿には、よく出会った。とてもかわいい。出会いがしらで、あったときには、目をまんまるくしていて、おしっこをちびらせてしまった。

びっくりさせたなあ、ごめんね……。 いとおしくなり、さりげなく通りすぎてしまう。なんてこった、鹿追いなのに……。それでいいと思う。そして、いつの間にか鹿を追うことをやめてしまった。

サウスアルポスが、静かにおじさんに語りかけてきたこと……。

里と高山との境目のこちら側、“人が住む里”で、岳斗くんたちと出会えた。今まで境目のあちら側で生きてきたから、人懐っこくなったのかもしれない……。

出会いを大切にしたいという気持ちが、大きくなってきたんだ。

自然が、サウスアルポスを通して、“出会いの大切さ”を教えてくれたのだろうね……。