「沖田(おきた) 」

中岡が呼ぶと、沖田は後ろを振り向いて中岡を見た。彼の階級は巡査部長だ。

「中岡さん、お疲れ様です」

他の警察関係者たちの間をかき分けるようにして沖田がやってきた。

「死体が出てきたんだってな」

「みたいですね。被害者は男性のようです」

「え? ということは、死後そんなに時間は経ってないのか」

「自分もまだ詳しいことは分かりませんが、どうやらそのようですね。そこに笹が生い茂ってるでしょ」

沖田が指さした方に中岡は顔を向けた。

「あそこで服を着たまま、空を見上げるようにして倒れてたみたいなんです」

「所持品は?」

「無いみたいです。バッグも何も無かったですし、身に着けていた衣類のポケットとかも調べましたが、スマートフォンも財布も、あと、家の鍵も入ってませんでした。もちろん運転免許証も」

「ふうん。ということは、身元を特定するところから始めなきゃなんねえわけか」

中岡は思わずため息をついた。

「で、誰が見つけたんだ」

「大学院生です」

「大学院生がこんなところに何の用があったんだ」

「どうやら研究活動の一環で、この地域の植生を調べていたらしいです」

「てか、もう二月の半ばだろ。大学生は春休みなんじゃねえのか」