【前回の記事を読む】いつもの友達、いつもの家族、いつもの家。普通の生活が大事だと留置所で理解したが、肌で感じるのとは雲泥の差だった
スクリーン ~永遠の序幕~
ただいま
ベッドの上で親父のくれたノートを見る。ほんとに俺の好む内容ばかり書いてある。楽しみにしていた漫画の最新刊の結末まで書いている。確かにこれがあれば空白の11日はすべて埋められるかもしれない。「自分がいなくても世の中は平然と回る」と悲観していた自分を責める。
久々のベッドはなんと心地よいんだろう。こんなにフワフワだっただろうか。それでも再び留置所生活に舞い戻りそうで怖い。そのうちに怖いほどの睡魔が襲ってきた。
22時。留置所だったら、とっくに寝ている時間だ。
※
10月20日。寝起きがいい。皮肉にも規則正しい生活をしていたお陰だ。
「行ってきまーす」
「今日くらいまっすぐ帰ってくるのよ」
夢にまで見た当たり前の生活。しかし、学校に行くのにこれほど勇気がいるとは思わなかった。歩数に合わせて緊張感が高まっていく。亮は俺が殺人容疑で逮捕されたことを知っていた。クラスの皆も知っているだろう。何と言いながら教室に入ったらいいんだろう。思考回路が短絡し、うつむいたまま顔を上げられない。
「おー、久しぶり」
「元気だったか」
「おかえりー」
クラスの皆が声をかけてきてくれた。このさりげなく迎え入れてくれる雰囲気が、「失った生活」を徐々に取り戻す期待へと変わっていく。
「これが毎日なら、俺相当人気者だな」
この一言を言うだけで俺の顔は真っ赤だ。
「何言ってやがる」
「ムショに入ってる時間が足りなかったんじゃないのか?」
即座にたくさんの返答がきた。ほっとする。皆どこかよそよそしいが、「いつも通り」を心がけて接してくれているのが分かる。昼休みになる頃、こんなに学校が楽しくなるなら誤認逮捕もありかもしれないとまで感じていた。
「なあなあ、留置所ってどんな生活するんだ?」
この瞬間、クラスメイトの動きが止まる。しかし、俺は驚くほど冷静な分析、思考ができる。このいなし方次第で、これからの生活の潤滑剤ができるか、はたまた地の底まで沈むか、大事な瞬間なのだ。