にもかかわらず、制度上の制限と歯科医師側の意識不足が、結果として「歯を守る文化」の根付きを妨げてしまっている。この現実に、私たち歯科医療提供者が真摯に向き合う必要があります。
患者さんの「がっかりする」ような歯科医療は、本来あってはならないのです。
ところが、現実には、保険制度の構造が、私たち歯科医師の行動までも縛っています。
日本の保険制度は「出来高払い」――つまり、治療すればするほど報酬が発生する仕組みです。そのため、多くの歯科医院では経営のために、最善であるはずの予防を後回しにして、できるだけ多くの患者さんを短時間で診療し、必要以上に歯を削ってしまうのです。
歯を守るべき歯科医療が、結果として歯を失わせている。この矛盾こそが、日本人の口腔崩壊の最大の原因だと私は考えています。
実際、日本では歯科医師は1日に平均24人の患者さんを診療するといわれています。単純計算でひとりあたり20分に満たない。この時間の中で、十分な治療、説明、患者さんとの対話を行うことは、現実的にきわめて困難です。
一方、欧米の歯科専門医は1日に診る患者数がわずか数人というのが一般的です。
ひとりの患者さんにたっぷりと時間をかけ、精度の高い治療と予防管理を行う。それが結果として「歯を削らない医療」を可能にし、長期的に、患者さんの利益を守っているのです。
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