第1章 星の夜の不思議(ふしぎ)なできごと
わんは夜の星空(ほしぞら)を見るのが好きなんだ。島の夜空は一年中星がいっぱいサ。でも冬(ふゆ)になるとなぜだかもっと星がいっぱいになって、夜空全体(よぞらぜんたい)が光のカーペットのようになる。じーっと見ていると吸(す)いこまれそうだ。
ある冬の夜(よる)のこと、その日も満天(まんてん)の星だった。ガジュマルの木のてっぺんに寝(ね)ころがって空を見あげていると、大きなオリオンが上ってきた。わんの一番好きな星座(せいざ)だ。
オリオン星座は、巨人(きょじん)がこん棒(ぼう)を振(ふ)り上げて猛獣(もうじゅう)と戦(たたか)っている姿なんだ。その腰(こし)には太いベルトが巻(ま)いてあってね、三つの大きな宝石(ほうせき)で飾(かざ)られているんだって。
その宝石はもちろん、三つの大きな星なのサ。その星たちが仲良(なかよ)くきちんと並んでいる様子(ようす)はまるで兄弟(きょうだい)みたいサねー。
(あっ、流(なが)れ星(ぼし)!)
わんは、流れ星をみると、なんだか胸(むね)がわくわくする。生き物の種(たね)がこうやってこの星に運(はこ)ばれてきたって、むかしむかしガジュマルの木が教(おし)えてくれた。
わんもそこからこぼれた星屑(ほしくず)から生まれたってね。ケケケ……
わんが星空に見とれていると、トポリの浜辺でだれかが話(はな)している声(こえ)がした。
わんは行ってみたよ。すると浜辺の砂(すな)の上に二つの影(かげ)がよりそって座(すわ)っていた。星明かりでよく見ると、一人のネセと一人のメラビだった(島口で若者(わかもの)と娘のことサ)。冬の浜辺は南の島でも冷(つめ)たい風が吹(ふ)くのに、二人は寒(さむ)くないみたいだ。
きっと、胸の中まであったかかったんだな。ケケケ……
「あら、今(いま)、近くでヤモリの鳴(な)く声がしたような?」メラビがそう言っても、ネセは、なにも聞こえていなかったように話を続(つづ)けた。
「狩人(かりゅうど)オリオンは、父親である海(うみ)の神と、大地の神を母親にして生まれたと言われているよ。これからこの島で畑(はたけ)を作っていく僕たちにとっては、一番の守り神さ。
ねえ見てごらん、あの三つ並んだ美しい星は、オリオンの腰の太いベルトで、一番左の星がアルニタクという星、まんなかの星はアルニラムというんだよ。そして……」
ネセが続きを言うのをさえぎって、
「しってるわ、右はしのかわいい星はミンタカね!」メラビは笑(わら)って言った。ネセも笑った。
ときおり聞こえるザザー、ザザーという波の音。二人は時(とき)のたつのをわすれて、暗(くら)い夜空に輝(かがや)くたくさんの星座のことをおしゃべりした。そのうちオリオンは大きくかたむき、うっすらとあかね色をしてきた山の端(は)に沈(しず)みかけていった。