【前回の記事を読む】ねえ見てごらん、あの三つ並んだ美しい星は、オリオンの腰の太いベルトで、一番左の星がアルニタクという星…
第1章 星の夜の不思議(ふしぎ)なできごと
突然(とつぜん)、近くでパシャンッという魚(さかな)がはねる音がして二人が顔(かお)をあげた。
「あら?」
「どうかした?」
「オリオンの三(み)つ星(ぼし)が少しへんよ……」
オリオンを見ていたメラビの瞳(ひとみ)に三つ星がうつり、キラッときらめいた。ネセも顔をあげた。そのとたん! 三つ星の左の星が輝きを増(ま)して、ぽっとふくらみはじめ、大きなゆらゆらした光の玉になって、こちらに向(む)かってきたんだ。
そして、二人の頭(あたま)のずっと上まですうーっとやってきたと思ったら、パチンっとはじけ、キラキラキラ……と光の粉(こな)になって、二人の頭にふりかかった。メラビは口もきけずにじっとしていた。もちろん、ネセも目を見張(みは)って、固(かた)まったように動(うご)かなかった。
メラビが頭をそっとまわして、ネセと顔を見あわせると、こんどはネセの目にうつった三つ星の一つがギラッと輝いた。メラビはハッとしてもう一度(いちど)オリオンの三つ星に目をやると、まんなかの星が、ビッカッ! と輝いて、おなじようにこちらに向かってギューッンと飛んでくるように見えた。
そしてあっという間(ま)にネセの胸にぶつかると、花火(はなび)のようにパアーっと広(ひろ)がって消(き)えた。メラビはおどろいておもわずネセの胸を両手(りょうて)でなでてみたけど、熱(あつ)くもなんともなかった。二人は肩(かた)をよせながらなにが起(お)きているか知りたくて、じっとオリオンを見あげていた。
「いったい、どういうことなんでしょう?」
「さあてね?」
二人がまじまじと三つ星を見つめていると、なんとこんどは、いちばん小さな右はじの星が、ピカッ! と光り、そうしてくるくる回(まわ)りながら、こちらに向かってキューッンと飛(と)んでくるように見えたんだ。
メラビは小さく(きゃっ)といって目をつむり、ネセはメラビの手をにぎった。光はキュルルルルンと、ガラスの笛(ふえ)をならすような音を立(た)てて、メラビのひたいに当(あ)たって、すーっとすいこまれて、そのまま暗くなった。
「まあっ!」
「おやおやっ!」
空を見上げると、三つ星は何事もなかったように元の場所に輝いていて、それっきり静かになった。オリオンもすっかりうす明るくなった山にしずんでいった。二人はおどろいたままことばをわすれ、夜明(よあ)けのトポリ浜辺でぼんやり波(なみ)の音とソテツの葉(は)のそよぐ音を聞いていたんだ。ケケケ……