【前回の記事を読む】祖母はおかしな人だった。少女の小さな体に木箱を背負わせ、用心棒代わりに連れ歩く。行く道は獣道で、うっかり足を滑らせれば…

第二章

日本中を旅する不思議な少女

貴重な薬を届けると、そこの人たちから凄く喜ばれていたが、たかちゃんには見返りも報酬も無く、全く実入りは無い仕事で有った。しかし、それで助かる人がいて喜ばれるだけで、それが嬉しくて、毎回、お婆さんからの薬運びを引き受けていた。 

これは後の話だが、たかちゃんは、人が喜ぶ姿を見る事で、自分も同じに嬉しく感じた。

人の役に立つ人間になりなさいと教えられていたので、両親の教え通り、自分が少し誇らしく思え、そして、少しだけ凛とした気持ちになった。

この経験で、たかちゃんは、その後の苦難の人生を乗り越える力を得たのだと思う。生きる事の大切さを、命を助けたいと思う人々から学んだ。

お婆さんは、たかちゃんに大事な薬を背負わせて、細い山道の山奥に入って行ったが、険しい山道でもアンプルを割らない様に上手く運ぶたかちゃんを重宝していたらしく、何の仕事も無い時でも、普段からたかちゃんを連れて、知り合いの所にお喋りをしに行ったりと、バスや電車に乗り、幅広く知り合いの家を回っていた。

事あるごとに、

「あたしゃ、千葉の富津の田舎者」

と、嘯(うそぶ)きながら、たかちゃんを遠くまで連れ回していて、兎に角、お婆さんの行動半径は広かった。