「奥様は今、病院のベッドで寝ています。意識はありますが、右腕を骨折しております。ただ命に別状はありません。ご両親が亡くなられたことはまだ話していません」
「事故の状況を教えてください」
「その辺は警察に聞いてください。今、奥様の部屋にいますから。警察も事故の状況を奥様に聞きたいようです」
サトルは妻の病室に案内された。琴音が右腕を固定されてベッドに寝ていた。顔色は真っ青で、サトルの顔を見て、泣きながら、
「ごめんなさい」と謝った。
「琴音が謝らなくてもいいよ。とにかく無事で良かった」
サトルは琴音の顔を見て、病院に来てから初めてフーッと大きなため息をついた。
「お父さまとお母さまはどうなんですか?」
「今は自分のケガのことだけ考えていればいい。これから警察の人に事情を聞くから。いいですね?」
サトルは二人の警官に向かって言った。
「じゃあ、外に出ましょう」
年配の警官がサトルに言って、病室を出た。サトルもそれについていった。
「奥さまから事故の状況を聞きましたが、まだ自分でも何が起きたかわからないような状態でして。ただ、気づいたら目の前に対向車がいたそうです」
「警察の調べではどうなのですか?」
「お宅からすぐ近くの片道一車線の道路での事故です。運転者はお父さまで、助手席にはお母さま、後部座席に奥様が座っていました。
お父さまの側には問題はなかったようです。反対車線を走っていた乗用車が猛スピードで対向車線を超えて、お父さまの車と正面衝突しました。相手の運転手もほとんど即死状態でした。相手には同乗者はいませんでした」
「そうですか」
サトルは体の力が抜けて、廊下に座り込んだ。涙が止まらなかった。自分の誕生日に食事会など開かなければ良かったのに。学生時代、両親に迷惑をかけ続け、やっとこれから親孝行するつもりだったのに、それも叶わなくなった。
次回更新は9月4日(木)、18時の予定です。
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