【前回の記事を読む】ベネチアに着いた僕達。家の中まで水が入ってきている家もある。家に船がある家も多い。まるで自転車のように船を使っているのだ
第二章 人生を大きく変えるベネチア旅行
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まるで観光に来た恋人のように1日を過ごした。京子は目を輝かせながら、ガイドブックやスマホを手に次々と観光地を巡る。僕は明日のパーティーの事が頭から離れず、どこに行っても上の空だ。
それでもゴンドラは楽しかった。ゴンドラ乗り場から、運河を通ってベネチア中心地を巡って戻ってくる。僕は恥ずかしいので嫌だったが、カンツォーネを歌ってくれる歌手を乗せて一緒に巡る。特にカンツォーネは知らないが、さすがに「オー・ソレ・ミオ」と「サンタルチア」は知っている。最初は恥ずかしかったのだが、ベネチアの運河を巡りながらカンツォーネを聞くのは、ここの風景ともマッチしていて違和感がない。
やはり文化というものは、そこの土地に根差してできていくものなんだと感じてしまう。狭い航路を曲がる時は、向こうから来るゴンドラが見えないので、ぶつからないように船頭が声を掛け合うし、急に止まる時は、足を家の壁につけて止まったりと職人技に見とれてしまう。最後の博物館と美術館は辛かった。落ち着いて見られない。京子は楽しそうだ。
それより気になるのはあとをつけている男がいることだ。空手をやっていて殺気などを感じることができるようになったからなのか、尾行されていることがわかる能力があるようだ。今回は尾行というより監視されている感じだったが――。